長くて遠い旅の途中、久しぶりにシランド城へ戻ってきた。 何かというとシランドへ立ち寄ったりはしているのだが、こうしてある程度ゆっくりと時間を裂けることはまずなかった。 ずっと留守にしていた自分の部屋へ行こうと長い廊下を進んでいくと、ネルの部屋の正面の扉がわずかに開いていた。 そこはクレアの部屋だ。 もしかして、クレアも帰ってきているのだろうか。 しかしクレアはこのように扉を完全に閉めずにいるような性格ではない。 だとしたら、誰がいるのだろうか。 城の中なので不審者というわけではないだろうが、ネルは念のために覗いてみることにした。 隙間から中を伺い見ると、部屋の奥に大きな熊が蠢いていた。 「!?」 熊!? ぎょっとしたが、しかし目の錯覚だった。 思わず目をこすり、もう一度見てみると、そこにいたのはアドレーだった。 ものの見事に似ていないが、れっきとしたクレアの実父である。 苦笑して、毛が生えていないだけで熊とほとんど変わらないような背中に声をかける。 「何をなさっておいでなのですか?」 「おう、ネルか。」 振り返っても、熊っぽいところは変わらない。 熊は豪快に笑いながら、 「わしも久しぶりに戻ってきたからの。クレアが留守中にどうしておったかと思ってな。」 娘の部屋を漁っていることにかけらも罪の意識を感じていないところが、いかにもアドレーらしい。 「あいつは日記をつけておったからな。きっとどこかに隠してあるぞ。」 「…へたに探さないほうがいいと思いますよ…」 クレアのことだ。父親の行動など見越して、二重底の引出しの下に発火装置つきで隠すくらいのことはやりかねない。 キャビネットを探っていたアドレーが、ん?と声を上げた。 もしかして、引出しが火を噴いたのだろうか。 なんとなく覗き込むと、巨大な掌に、何か小さなものを乗せていた。 「なんじゃ?この石っころは。」 ためつ眇めついじる小石は、小指の先ほどの大きさで銀色っぽい色をしていた。 それを見たネルの心に、なんとなくひっかかるものがあった。 「ふーむ…?」 アドレーは結局よくわからないといった様子で、ぽいと投げ捨てようとする。 その瞬間、ネルは あ! と声を上げていた。 「なんじゃ?」 「い、いえ、下手にものを動かすと、クレアにばれますよ。」 「ふむ、そうじゃな。」 素直に納得しながら、投げ捨てようとした小石をキャビネットへ戻す。 「で、では私は失礼いたします…」 「おう。」 ネルは急いで一礼し、くるりと踵を返して自分の部屋には入らず、元来た道を引き返していく。 背後で爆発音と熊の咆哮のような悲鳴が轟いたが、ネルの耳には届いていない。 あれは… あの小石は… ネルの脳裏で、楽しげな少女の笑い声が鈴の音のように響いていた。 春の季節にふさわしく、優しい色の花々が咲き乱れていた。 傍を流れる川ははるか遠くの山から雪解けの水を運び、清冽なきらめきに満ちている。 花と柔らかな若草に埋もれるようにして、河原に座り込んできゃっきゃとはしゃいでいるのは、鮮やかな赤の髪の少女と、暗く落ち着いた銀の髪の少女だった。 花を摘んでいた銀の髪の少女が、小さな声を上げた。 「どうしたの?」 赤い髪の少女が振り向くと、銀の髪の少女が嬉しげに小さなものを差し出した。 「こんなの見つけたの!」 見れば小さな手に、もっと小さな小石が乗っていた。 それは赤っぽい、つやつやとした丸い石だった。 「わあ、きれいだねえ。」 「でしょ?ネルみたいでしょ!だからあげる!」 「いいの?ありがとう!じゃあじゃあ、あたしクレアみたいな石探したげるね!」 花を摘んでいた少女たちが、いつの間にか小石拾いに興じていた。 赤い石が珍しければ、銀の石もまた滅多に見かけないものだった。 太陽が傾き、河原へ投げかけられる光がオレンジ色を帯びてきている。 「ネル、もう暗くなっちゃうよ。また明日探そ?」 「待って、きっと見つけるから!」 小さな手を泥だらけにして、なんとか銀色に光る石を探しつづける。 しかしネルが思うような小石はなかなか見つからない。 灰色の石はいくらでもあるのに、銀色の石が見つからない。 「おーい、迎えにきたよ。」 「そろそろ帰るぞー!」 河原の土手から、夕日に映える赤い髪をなびかせた青年と、巌のような筋肉で光線を跳ね返すもう少し年上の男が降りてきた。 「あ、お父様!」 「待って、待って…」 いつもなら父親が迎えにくればおとなしく帰るネルが、今日に限ってそれを拒んでいた。 「何を探しているんだい?」 「ごめんなさいお父様、もうちょっとだから…」 「仕方ないね、でもあの太陽が沈む前に帰るんだよ。お母様が心配するからね。」 「うん!」 父親から許しが出たことに素直に喜色をあらわして頷き、再び草むらを探し回る。 その間にも、赤い太陽ははるかな山並みにゆっくりと沈んでいく。 早く見つけなければ。 ネルは無我夢中で探していた。 手元がだいぶ暗くなり、もはや石の色など見分けられないのではないかと思われたときだった。 「…あ!」 深い草を掻き分けたネルが、大きな声を上げる。 そしてその手に持っていたのは、艶やかな銀色の光を宿す小石だった。 「あったー!」 小鹿のように跳ね回り、はい!と銀色の小石をクレアにわたす。 クレアも満面の笑みを浮かべ、 「ありがとう!じゃあこっちはあたしが持ってるね!」 「うん、あたしもずっと持ってるね!」 あたしたちの友情の印にしよう。 そう言って、幼い少女は互いに微笑んだのだった。 あれから何年経ったのだろうか。 あの頃はまだ父ネーベルも健在だった。 まだ体に施紋も刻んでおらず、修行もはじめていなかった。 そんな思い出の彼方といってもいい頃に拾った小石を、クレアはずっとしまっていた。 それなのに… ネルは唇を噛み締める。 …なくしてしまった。 あれからじきに、ポケットにしまっていた小石がいつの間にかなくなってしまっていたのだ。 シランドの石畳を這いまわるように、ネルは必死に探した。 白っぽい灰色の乾いた石畳に赤い小石が落ちていれば、すぐにわかるはずなのに。 いくら探しても見つからない。 自分が通ってきた道を引き返しながら、探しつづける。 せっかくクレアがくれたのに。 夜になっても帰ってこないネルを心配して探しにきたネーベルは、泣きながら地べたを這いまわるネルを見つけた。 「どうしたんだい?」 手も顔も泥だらけにして涙でくしゃくしゃになったネルを見て、驚いて駆け寄る。 ネルは父親の優しい顔を見た瞬間、その首にしがみついていた。 何も言わずにわあわあと泣くネルを抱き上げ、優しくその背中を撫でる。 「かわいそうに、きっと辛いことがあったんだね。お父様が来たからもう大丈夫だよ。」 いつもなら、何があっても父親が来てくれれば大丈夫だという気持ちになれた。 しかし今回は、どうしてもそう思えなかった。 何故なら、落としてしまったのは小さな小石ひとつなのだ。それも、どこで落としたかもわからない。 いくら世界一だと自慢している父親でも、それを見つけるのは無理だと思った。 それ以上に、このことを誰かに言ってクレアに知られるのが怖かった。 ちゃんとしまっておけばよかった。 嬉しくて、ずっと持っていようと思ったのが間違いだった。 次の日も、また次の日も探したのに、赤い石は見つからなかった。 そして小石をなくしてしまったことを、ネルはずっとクレアに言えないでいた。 ごめんクレア。 クレアはずっと大事に持っていてくれたのに。 その日以来、幼い心は後悔の念に苛まれていた。 ネルは痛みを思い出したかのように目を細め、あのときと同じ色をした夕焼けの空を見上げた。 オレンジ色の夕日を照り返す川の流れは、何年経っても変わらない。悠久の営みから見れば、人間の十年や二十年など、瞬きほどの時間でもないのだ。 ここの河原の草は、こんなに背が低かったっけ。 あの頃よりずっと背が伸びたネルは、苦笑して屈みこんだ。 川も変わっていなければ、河原も変わっていなかった。 転がっているものは灰色の石ばかりだ。 この中から、どうやってクレアは赤い石を探し出したのだろうか。 あのときネルが銀色の小石を見つけられたことさえ、奇跡としか思えない。 それほどまでに、灰色の小石しかなかった。 いつしか、額に汗が滲んでいた。 それを腕で拭いながら、心は幼かった過去へと飛ぶ。 あのときは、最初はただ嬉しくて、楽しくて、わくわくしながら小石を探していた。 それが探すほどにだんだん不安へと変わり、言いようのない焦燥感へと変わっていった。 自分だけクレアに小石をもらっておいて、お返しができないことがどうしても我慢ならなかった。自分ひとりがあの嬉しい気持ちを独占するのは申し訳なかった。クレアにも、同じ喜びをあげたかったのだ。 そして今、いつの間にかあの頃に感じたものと同じような不安が胸を過ぎる。 どうしよう。 見つからなかったらどうしよう。 沈みゆく太陽のオレンジ色の光が、河原に屈みこんだネルの赤い髪をより一層鮮やかに染め上げる。 あのときは、隣でクレアも一緒に銀の小石を探してくれていた。 はじめのうちはおしゃべりをしていた二人も、だんだん口数が少なくなって、必死に探していた。 そしてこうやって夕暮れと共に暗くなって、手元がよく見えなくなってきたとき… …おーい、迎えにきたよ… 「おい。」 記憶の中の懐かしい父親の声に、現実という質量を持った別の声が重なった。 「!?」 ぶっきらぼうなその声に、過去に飛んでいたネルの心は現実に引き戻された。 慌てて振り返ると、夕日のオレンジの光を受けて真紅の瞳を炎のように燃え立たせる男が立っていた。 何故こいつがここにいるのか。 いつの間にそこに来たのか。 呆気にとられているネルのもとへ、草を踏みしめてやってくる。 「背後をとられて気づきもしねえとは、たいした隠密だな。」 「う、うるさいね…」 過去に心を奪われ、背後から近づくアルベルの気配に気づきもしなかった。 気恥ずかしくて、ぷいと顔を背ける。 「何やってやがんだ。」 「それはこっちの台詞だよ。」 ここは城の裏手で街も家もなく、普通は人の来る場所ではない。 だから偶然通りかかることなどありえない。 「…夕飯時になってもてめえが帰ってこねえから、探してこいって言われたんだ。」 視線を逸らしてそういうことを言うときは、大抵が嘘をついているときだった。 頼まれたのではない。 自分で探しに来たのだ。 「こっちの方にてめえが走っていくのを見たって奴がいたんでな。」 「そうかい…面倒かけたね…」 我知らず微笑みながらも、その手は小石を拾っていた。 「芋でも掘ってんのか?」 「違うよ、バカ。…探し物だよ。」 「なんか落としたのか?」 「うーん…落としたといえば落としたんだけど、それじゃなくて、それと同じものを探してるんだ。」 「…はあ?」 事情を知らないアルベルは、怪訝な顔をする。 「だから、皆には先にごはん食べててって言っておいてくれないかい。」 再び小石を探し始めたネルの傍で、がさと音がした。 振り返ると、アルベルが屈みこんでいた。 「で、何を探してやがる。」 「え?」 「え?じゃねえ。どうせてめえのことだから、見つかるまで帰らねえつもりなんだろうが。」 「……」 見事に見透かされていた。 「でも…たいしたものじゃないし、あるかどうかわからないよ?」 「たいしたものじゃねえもんを、徹夜覚悟で探すつもりだったのか?」 あっさりと看破されれば、ごまかそうと思うだけ無駄だった。 まったく、この男はどうして… ネルは苦笑した。 「…赤い、小さな石だよ。」 「はあ?」 案の定、変な顔をする。 「だから言ったじゃないか。」 帰ってもいいんだよ?と言おうとしたときには、アルベルは足元を探り始めていた。 長身をちぢこめて、左手のガントレットでざくざくと荒っぽく小石をかき分けている。 そして夕暮れの中で小石の色が見分けにくいのか、時折小石をつまんでは色を確認している。そして違うとわかった石を後ろへ投げながら、 「いつ落としたんだ?」 何気なく聞いてきた。 「…十五年くらい前かな。」 「やっぱりな。」 「え?」 一人納得したように頷きながら、なおも探している。明らかに小石探しなど性に合っていないだろうに、何故かせっせと探しつづけている。 それも、当然といった顔で。 「やっぱりって…?」 首をかしげるネルに、アルベルは背を向けたまま呟いた。 「まるで泣きながら必死に探し物をしてるガキみてえだったからな。」 どきりと心臓を上下させたネルの胸の中で、ぽっと小さな光が灯ったような気がした。 本当に、他人のことなどどうでもいいような顔をしておきながら、何故こうもわかってしまうのだろう。 どれだけ仮面で表情を隠そうとしても、どれだけ虚勢を張ろうとも、そんなものはまるきり無視して、壁に隠れていたはずの素顔のネルのもとへ切り込んでくる。 それもごく当たり前のことのように。 かなわないな… ネルは降参の印に肩をすくめ、ぽつぽつと語り出した。 「落としたのはね…クレアからもらったものなんだ…」 あのときなくしてしまった小石は、どれだけ探そうと見つからなかった。 そしていつしか、後悔の念だけを心の片隅に焼き付けたまま、忘却の彼方へと追いやられてしまっていた。 クレアに申し訳ないという思いだけを、漠然と残したまま。 そして偶然、アドレーによって忘れられていた記憶が甦ってしまった。 クレアは大人になった今も、あの小石を大事に持っていてくれた。 それなのに… 「私はなくしたまま、忘れていたんだよ。」 今あの小石を探しても、絶対に見つからないのはわかっている。 だから、クレアがあの小石を見つけた河原で似た小石を見つけることによって、クレアへの謝罪に代えようと思ったのだ。 赤い小石を手にしてこそ、クレアに謝れる。 手ぶらで謝ってもまったくかまわないとは思うのだが、何故かできない。 それはきっと、幼い頃の後悔の念に決別したいからだと思った。 「…阿呆だな。」 「…そうだね。」 銀色の小石を探しているときは傍にクレアがいて、赤い小石を探しているときは、何故かアルベルがいて…。 太陽はついにはるかな山並みへと飲み込まれてしまった。 広い河原を夜の闇が包み込む。 「これじゃ赤かろうと青かろうとわかんねえぞ。」 どれを見ても黒っぽい色になってしまった小石をつまんで、アルベルが溜息を吐く。 ガントレットのかぎ爪についた泥を払うこの男は、豪快に掘りまくっていた分、おそらくネルよりもたくさんの石を探っていたのではないだろうか。 悪態をつきながらも真剣に探してくれたアルベルに、なんともいえない温かな気持ちが湧いてくる。 自然と湧き出るぬくもりに任せるように微笑んでいたネルは、胸の奥からあの焦燥感が消え失せていることに気づいた。 見つけなくちゃ、と必死になって、何かに追い立てられるようにして小石を探っていたはじめのうちと違って、いつの間にか楽しくなっていた。 あんたが一緒に探しはじめてくれたから…? 思えばアルベルが現れてから、そんな思いは消えていた気がする。 「…ありがとう。」 自然と、そんな言葉が口をついて出た。 「何が。」 「何って…一緒に探してくれたことだよ。」 「別に礼を言われたくてやったわけじゃねえ。で、小石はどうすんだ?見つかってねえだろ。」 「もういいよ。なんかすっきりした。あんたがあれだけ探してくれたからね。」 「……。」 わざと仏頂面をするときは、照れ隠しをしていると相場が決まっている。 あんたが私の想いを簡単に見透かすように、私にだってあんたの考えることくらいお見通しなんだから。 …まるで泣きながら必死に探し物をしてるガキみてえだったからな。 ネルの胸のアルベルの言葉が甦る。 幼いとき、ネルが泣いていると父は必ず来てくれた。 本当に、どこから聞きつけてくるのかと不思議に思ってしまうくらい、すぐに飛んできてくれた。 「そっか…今はあんたが来てくれるんだね…」 「なに?」 「ううん、なんでもない。でも、なんかあんたらしくないね。私が泣いてる子供みたいだったから手伝ってくれたなんてさ。」 「誰がそんなこと言ったよ。」 暗くて表情はよく見えないが、きっとその顔を赤くしていると確信できる。 なんとなくおかしくて笑っていたネルに、暗がりの中の男の顔が不敵な笑みを向けた気がした。 「…一晩中てめえが帰ってこねえと、いろいろと手持ち無沙汰だからだ。」 「は?」 何が?と言おうとしたネルの腰を引き寄せ、耳朶に唇を寄せる。 「俺らしい理由だろうが。」 囁かれ、瞬時に顔中に血の色を昇らせる。 「バッ…」 振り上げた拳は途中で掴まれ、口元まで出かかった怒声も寸前で出口を塞がれた。 身動きの取れないまま河原を撫でる夜風に赤い髪を乱されながらも、ネルの心は本当にすっきりしていた。 きっとあのとき父親に一緒に小石を探してくれと頼んでいれば、あのようなしこりを心の奥底に残さずにすんだのだ。 今なら、クレアに本当のことを言える。 こうして、あんたが一緒に探してくれたから… はるか彼方で、幼い少女が笑ったような気がした。 ある日アリアスに立ち寄った際、ネルは思い切ってクレアを訪ねた。 「あのさ、クレア…覚えてるかな。」 「何を?」 「私たちが子供の頃、二人で小石を拾ったこと…」 「え?ああ、赤い石と銀色の石を交換したことね。覚えてるわよ。」 クレアの微笑を見てネルは思わず怯んだが、それもほんの束の間のことだった。 「あのね、その小石なんだけど…」 「確かネルったら、あれからすぐに落としちゃったのよね。」 「そうなんだ…って、え!?」 大きなスミレ色の瞳をさらに見開くネルに、クレアは相変わらず楽しそうな笑顔を向けている。 「なな、なんで知って…」 「それはそうよ。だって小石が落ちてたのは私の部屋だったんだから。」 「は……?」 ぽかんと口を開いたきり、ネルは二の句が次げなかった。 目も口も大きな丸にしたまま固まっているネルを、クレアはさもおかしいといった表情で、 「ごめんなさいね。私が拾ったこと、あなたに言うの忘れてたの。あれは今でもしまってあるわよ。」 「…………」 呆気にとられたままのネルの肩を、笑いながら慰めるように叩く。 「でもいいじゃない。それのおかげで、この間の夜はずいぶん楽しそうだったじゃないの。」 「…は?」 「あれだけ晩生だったネルが、今では河原で堂々といちゃついてるんですものねえ。」 「……は!?」 「むしろアルベルさんにお礼を言うべきかしらねえ。」 「……う、うわああああああっっ!!!」 かつて二人の少女が楽しげに笑い合っていた河原から少し離れた場所で、大人になったかつての少女たちが片や楽しげに、片や世界が崩壊したかのような絶叫を轟かせていた。 二人の少女の小さな小さな友情の証は、シランド城の一室のキャビネットの中に今もひっそりと並んでいた。 |