Count Down



 きらめく氷の粒のような雪が舞い散るアーリグリフの街を眼下に見下ろす高台で、アルベルはそれと対峙していた。
 凍てついた岩肌を背に、半ば雪に埋もれた格好で巨大な黄色いアヒルが鎮座している。
 人をバカにしたその形には覚えがあった。
 同時に、いやな記憶も甦ってくる。
 フェイトたちと初めて戦ったとき、剣を交えることなくこれをさんざん投げつけられてやられたのだ。
 今でこそ自分で作ることはあっても、絶対使いたくない代物だ。
 そのものの名は、ボム。
 爆発して敵に様々なダメージを与え、種類によっては味方も被害を受けたりする、ボムとしか思えない形状をしている。
 ボムには様々な種類があるが、いずれも表に種類が書いてある。しかし大抵フェイトたちが使う異世界の文字が書かれているので、エリクール組には読めないのだが。
 はたしてこれは何のボムだろうか。
 しかもいつも目にする掌サイズのものとは比較にならないほど大きい。
 誰が何のために?
 こんなものをこんな場所に放置した目的がわからない。
 もしこのようなところで爆発したら、確実に山が崩れて雪崩が起き、街に被害が出るのは確実だ。
 そう思って、もう一度ボムらしきものをよく見てみる。
 確か、この両脇の翼の部分は開けられたはずだ。自分が知っているものは、その中にスイッチなどがついている。
 試しに折りたたんだ翼の形をした部分を探ってみると、同じように開くことができるようだ。金属が軋む音をたてながら、そっとそこを開けてみる。
 思ったとおりいくつかスイッチが並んでいて、その上に四角い黒い表示部分があり、そこに数字が並んでいた。
 しかしその数字はいつもフェイトたちが作るものと違って、自分たちが使う文字による数字だった。
 だからそれが時間を表していることはすぐにわかった。
「……」
 その数字が、動いている。しかも、時間が進むのではなく、減っている。
 なんだかいやな予感がしてきた。
 もしかして、これはカウントダウンをしているのではないか。
 だとしたらこの数字がゼロになったとき、このボムは爆発するのか。
 そして蓋の裏に書いてある、やはり自分たちが使っている文字を見たとき、不安はいっそう強くなった。
 そんなアルベルの耳に、雪を踏む足音が聞こえてきた。
 はっとして振り返ると、そこには白い世界に鮮烈に映える赤の髪を揺らす黒装束の女がいた。
「こんなところにいたんだね。皆が呼んで…」
 いつものようにどこかをほっつき歩いているアルベル回収係を引き受けたらしいネルの姿を見た瞬間、アルベルはそれまでのどこか傍観者的だった気持ちが吹っ飛んだ。
「こっちに来るな阿呆!」
「は?」
 その慌て方に、ネルも怪訝な顔をする。
 なおも歩み寄ってこようとするネルに駆け寄って、その肩を掴んで後ろを向かせる。
「いいから、てめえはここを離れろ!街からも出てろ!!」
「な、なんだってのさ。」
 その剣幕に戸惑いながら、肩越しに彼が見ていた岩肌を見る。
 そして巨大アヒルに気づいたネルも、怪訝な顔をする。
「なんだい、あれ…」
 アルベルの手をかいくぐり、その物体の前に行ってなおもよく見る。
「…なんかボムに似てるねえ。」
「そうとしか見えねえだろうが。だから、てめえはとっとと出てけってんだ。」
 その言葉にネルは眦を吊り上げて、彼の二本に結った長いしっぽのような髪をひっつかんだ。
「いでっ…!」
「あんたはどうすんだい!?」
「ここは、街のすぐ上の高台だ。こんなどでかいものに爆発されちゃ、雪崩れて街が潰れる。幸い、この下の地区は倉庫街だがな。」
「だから、なんとかしようってのかい?」
 返事がないということは、肯定しているということだ。
 口ではなんだかんだ言いながらもアーリグリフはアルベルの守るべき国であり、愛する故郷である。だからその街を守りたいという思いは、戦火から国を守ろうと必死だった自分には痛いほどよくわかる。
 ちらりと、蓋が開いた状態のボムらしきアヒルを見る。
 黒い文字盤の上で、光る数字が着実に減っている。
「これ、なんのボムだい?ピヨピヨボムとかなら被害は出ないんじゃないかい?」
「よく見ろ。」
 アルベルが指し示した蓋の裏に書いてある文字は…
―かわいくてキュートで爽やかな三人組製―
 と書いてあった。
「…はあ?」
「ボムを作れるクリエイターでこんなことほざくのは、少なくともデジソンやイザークじゃねえだろ。」
「てことはバニラとかメリルかな。確かに前の二つには当てはまるかもしれないけど…爽やかなって、誰?」
「知るか。」
 一見ただのウサギなのに凶暴な機械を作るバニラと、普通の少女にしか見えないのに凶悪な高笑いをしながら怪しい機械を作るメリルが思い出される。
 彼らが作ったものだとすると、これが普通のボムだとは思えない。アルベルもネルも、大きくえぐられた岩肌と、岩石と雪に埋もれたアーリグリフの街を想像していた。
「本当ならフェイトだのクリフだのにやらせりゃ早いんだろうがな。あいつらを呼びに行く時間はねえし、街の連中に避難勧告を出す時間もない。」
「…だからって、あんた…」
「だからてめえはどっかに逃げとけ。」
 ネルを押しのけてボムらしきアヒルの前に立つアルベルの背中に、寒気にも似た戦慄を覚えた。
「冗談じゃないよ!」
 自分もボムに手を伸ばそうとするが、その手を掴まれてしまった。
「触るな。てめえ、機械は激しく苦手だろうが。」
「あんただって、得意ってわけじゃないじゃないか。」
「てめえよりははるかにましだ。それにこの形のボムは作ったこともある。だからくつじょくのかたまりしか量産できねえてめえはすっこんでろ。」
 言い方はひどいが、その真紅の瞳は真剣で、必死の気迫さえ感じられる。
「……」
 逃げろということは、これを止める自信がないからではないか。
 それでもわずかな可能性のために一人で残ろうという男を残しておけるネルではない。ましてそれが、この男ならなおさらだ。
 ネルの想像どおり、アルベルはこれを止める自信などさらさらなかった。
 作ったことはあっても図面を見たり指示を受けたりしながら作ったもので、理論はほとんどわかっていないのだ。それに下手にいじると、暴発することもあると聞いたこともある。
 そんな危険なことに、この女を巻き込みたくない。
 アーリグリフが崩壊するのもいやだが、何よりこの女が爆発に巻き込まれることの方がはるかにいやだ。
「何ぼーっとしてやがる。とっとと逃げろ。」
「いやだって言ってるだろ!?機械が苦手だって、二人でやれば…」
―10分前―
 いきなり聞こえた無機質な機械音声に、二人は同時に振り向いた。
 はっと見れば、文字盤に光る数字が10:00を切っている。
 あと、十分ないということか。
「ちっ…」
 アルベルは表示やスイッチが並んでいる部分の枠にそっと手をかけ、ゆっくりとずらす。
 すると薄い金属の覆いが外れ、内部の機械が見えるようになった。
 赤、白、青、紫、黄色のコードが狭い箱の中に走っている。
「ど、どうするのさ…」
 遮るようなアルベルの腕の後ろから、ネルが不安そうに覗き込む。
「この線を営力が通って、中の機械を動かしてるんだと。だから、それにつながる線を切って営力が流れなくすればいいと聞いたことがある。」
「じゃあ、全部切っちゃえばいいんだね?」
「…それならなんも悩むこたねえよ。切るのは二本で、下手なもんを切るとかえって爆発するんだと。」
「……じゃあ、その二本てどれさ。」
「わからん。」
「……」
 沈黙が流れる中、配線の上に浮いたような形になった黒い文字盤で、光る数字がカウントを続けている。
「もしかして…勘?」
「だな。」
 言いながら、刀の鞘に添えてある小柄を抜く。
「てなわけで、てめえは逃げろ。てめえの足なら、今から走れば余裕で逃げられるだろ。」
 振り返りもせずに言うアルベルの、肩越しに見える形のいい顎の線を見上げるネルは、無意識のうちに頭を振っていた。
 冗談ではない。
 自分だけなんて…
「いやだよ!」
「わからねえ女だな!爆発したらどうすんだ!」
「そうしたらあんた、死んじまうだろ!?そんなことさせられるわけないじゃないか!」
 自分でも、泣きそうな声になっているのがわかる。
 コードを睨むアルベルも、胸の奥がこれほどざわつく感覚は初めてだ。アルベルの背中に、ネルの額がこつんとあたる。
「独りで死ぬ気かい?」
「死なねえよ。」
「嘘だ。こんなに緊張してるあんたなんて、見たことない。」
「……」
 否定はしない。掌にじんわりと汗を感じることなど、失敗したとはいえ焔の継承のときにもなかったことだ。
 いや、最初のうちは緊張などしていなかった。
 この場にネルが現れるまでは。
 死ぬことなど、怖くない。
 自分の命など、むしろどうでもいい。
 ただ守りたいものを守れさえすれば、それでいい。
 しかしその最も守りたい存在が、危険の真っ只中に飛び込んで来てしまった。しかも自分から離れないという。
 これでは、絶対に生へつながる道を選ばねばならないではないか。
「…てめえは死ぬな。」
 背中にいる女に聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟いた。
 その声が届いたか、背中からネルの腕がまわってアルベルの胸でしっかりと握り締められる。
「よかったよ、あんたを探しに来て。でなけりゃ、あんた独りで死んじゃうところだったんだから。」
「意味もなく死体を増やす阿呆がいるか。」
「…私を独りで遺す気かい?」
 ネルの呟きに、心臓を錐で突かれたような痛みを感じた。
 その痛みを飲み込むように、ゆっくりと息を吐く。
「…てめえを死なせたくねえ。」
「そんなこと言われて、はいそうですかって引き下がる私だと思うかい?…私だって、あんたが死ぬところなんて見たくもない。」
「ちっ、相変わらず頑固な女だな。」
「いいじゃないか。もしだめだったら、二人同時にあの世行きなんだから。」
「…阿呆。」
 言いながらも、アルベルの心臓は早鐘のように打っていた。
 自分が爆死しようとかまわないが、後ろにいるこの女を死なせたくはない。
 残り時間は七分。
 小柄を握る手が、異様に汗ばんでいる。
 コードは赤、白、青、紫、黄色の五種類。
 このどれを切ればいいか、わからない。完全な運任せだ。
 小柄を手に、コードを睨んでいる男の迷いを察したのか、ネルがアルベルの背に頬を寄せたまま、
「あんた、心臓ばくばく言ってるよ。そんなんで大丈夫かい?」
「誰のせいだと思ってやがる。」
「代わろうか?」
「阿呆。」
 そう言っている間にも、カウントは進んでいく。
 どうすればいい。
 どうすれば、この女を死なせないですむ。
 アルベルの葛藤を感じ取ってか、ネルが感心したように呟いた。
「あんたも冷酷になりきれない男だねえ。」
「てめえに言われたくねえ。」
「だって、これを止めたいだけならとっとと線を切ってみればいいんだし、私を助けたいだけなら、担いででもこの場から逃げればいいじゃないか。そのどっちも選べないんだから、あんた、やっぱり漆黒団長なだけはあるよ。」
 そういう男だとわかったからこそ…
「皮肉か。」
 あんたに、総てを預けられる。
「ねえ、どうせ勘で選ぶなら、私が切る線を選んでもいいかい?」
「………ああ。」
 ネルよりも機械の扱いがましだとはいえ、仕組みがわからないのではどうしようもない。
 こいつを死なせたくはないが、それもまたいい気がしてきた。
「何色だ。」
 肩越しに見下ろす男の瞳を見上げたネルが、わずかな微笑を浮かべ、
「…赤がいい。」
 あんたの瞳の色だから。
 それは胸の中で呟いて。
「赤、だな。」
「うん。」
 もしかしたら、これで終わりかもしれない。
 背中越しに、ネルの緊張した心臓の鼓動が伝わってくる。背中に頬を押しつけたネルの耳にも、自分の暴れる心臓の鼓動がうるさいくらいに響いているはずだ。
 たとえ爆発したとしても、この女だけは…。
 体の前に回っていた腕をはずし、自分の背中に回させる。
 その行動に何かを察したようだが、何も言わずに背中にしがみついている。
 赤いコードをつまみ、思い切って小柄の細い刃をあてた。
「切るぞ。」
「いいよ。」
 ぎち、と鈍い音がして、銅線が切れる音がする。
 同時に、冷たい汗が首筋を流れる。
 しかし、それだけだった。
「……爆発、しねえな。」
 確かめるように巨大なアヒルを見上げ、さすがに額の汗を拭う。
「…第一関門は突破だね。」
「じゃあ、もう一本だ。」
 それで総てが決まる。
「今度は、あんたが選んでよ。」
「なに?」
「だって、あんたは街も私も助けたいんだろう?なら、きっと正しい色を選べるよ。」
「だといいんだがな。」
 肩越しに見下ろすと、わずかに微笑むネルと目が合う。
 その瞬間、腹は決まった。
「…よし。」
「何色にするんだい?」
「紫だ。」
 ネルの瞳と同じ色が幸運をもたらしてくれると信じて。
「いいよ。」
 アルベルの瞳と同じ色が一つ目の幸運をもたらしてくれたのと同じように。
 残り時間はあとわずか。ついに一分を切った。
 あれほど暴れていた心臓が、今は不思議と静まってきている。それは伝わってくるネルの鼓動も同じだった。
 まあ、そろって死ぬのも悪くねえな。
 腹を決めたアルベルの小柄が、紫のコードを切った。
 その瞬間、アルベルは自分の体で爆風と熱を遮るように、両の腕を広げていた。
 怒涛のような熱と爆風の前には、そんなものは無力であろうとも。
 その背中に掴まるネルの指にも力がこもった。


「……」
「……」
 いつまで待っても、爆風も衝撃もこなかった。
 恐る恐る目を開けると巨大なアヒル型ボムはそのままの形で鎮座していた。
「……」
 覗きこむように、黒い表示板を見てみる。
 カウントは、停止していた。
 …止まった。
 安堵の溜息とともに全身から力が抜ける。
 背中にしがみついていたネルの指からも、力が抜けていくのがわかる。
「…うまくいったみたいだね…」
 その言葉に、さすがにほっとした顔で、ああ、と応える。
 助かった。
 この街も、ネルも。
 強烈な緊張から解放された瞬間、すさまじい精神的疲労が全身を襲う。
 その場にへたりこんでしまいそうなほどの脱力感になんとか抗いながら、
「あとは機械が得意な連中に始末してもらうだけ…」
 そう言いかけたとき、いきなり巨大アヒルから甲高い音が鳴り響いた。
―予備電源作動―
 その機械音声の意味を理解するより早く、止まっていたはずのカウントが再び動き出した。
「なんだと!?」
「なんで…!!」
 驚く二人を嘲うかのように、カウントが残り秒数を告げる。
―10・9・8…―
 間に合わない!
 咄嗟に、ネルに覆い被さるように雪の上に倒れこんだ。
―4
 3
 2
「…っ」
 1、の音声が無情に響く。
 間もなく襲い掛かってくるであろう衝撃に備えるように、きつく目を閉じた。

 チーン☆

 鼓膜を破る爆発音に身構えていた耳に飛び込んできたのは、鉦を叩いたような音。
 そして肉体を焼く焦熱も何も襲ってこなかった。
 代わりに流れてきたのは、温かく甘い、香り。
「……」
「……」
 アルベルが、そっと目を上げる。
 ネルもアルベルの下から、恐る恐る覗いてみる。
 巨大アヒルは、今回もまたそこに鎮座していた。
 しかし、ひとつだけ先ほどと変わっているところがあった。
 巨大アヒルが口をあけているのである。
 そして口の中にあるものは…
「…………芋?」
「…………さつま芋…だね…」
 温かそうな湯気をまとい、おいしそうな甘い香りを放つ、さつま芋。
 呆然としているところへ、
「そろそろできたかなー♪」
 嬉しそうな声で駆け上がってきた者たちがいた。
 坂道を急ぎ足で上がってくるフェイトと、スキップしてついてくるソフィア。
 そして、坂道を上がって来た二人が見たものは、雪の上にネルを押し倒して覆い被さっているアルベル。
「……」
「………」
「…………」
「……………」
 時間さえ停止したような空間の中、冷たい風が吹いていく。
「っきゃ〜〜〜!!ごめんなさいっ!お邪魔しましたー!!」
「アルベルっ!いくら宿には皆がいるからって!!」
「なっ、ちょ、ちょっと待ちなっ!」
「誤解すんな阿呆!!」
 豆がはじけ飛ぶような勢いで飛び離れ、立ち上がる。
「そんな思いっきり押し倒しておいて、誤解も六階もないだろ!」
「違うっつってんだろ!!このボムが爆発すんじゃねえかと思ってだな…!」
「ボム?ボムって、どれ?」
 フェイトがきょとんとする。
「そこのばかでかいアヒルに決まってんだろうが!」
「ああ、これ?やだな、これはボムなんかじゃないよ。」
「石焼芋製造マシーンです〜!」
「……はあ!?」
「石焼…芋…?」
 呆気にとられている二人に、フェイトが得意げに説明する。
「いやー、ここ寒いだろ。ソフィアに頼まれてさ、バニラとメリルに手伝ってもらって作ったんだよねー。」
「そろそろできるから、皆と食べようと思ってたんですよー。」
「…そこに書いてある、『かわいくてキュートで爽やかな三人組』の最後に該当するのは…もしかして、あんたかい?」
「ははは、やだなあ。爽やかなキャラなんて、この宇宙で僕以外に誰がいるんですか。」
 自称爽やかな男が、これ以上ないほどに爽やかな笑みをたたえている。
 しかし何故か背筋に冷たいものが走るのは、気のせいだろうか。
「なるほど…これを作ったのはきさまか。」
「おいしそうだろ?見た目もかわいいし、完璧だよね。」
「紛らわしいもん作るんじゃねえ、このド阿呆クソ虫!!」
「はっはっは!ネルさんといちゃついてるとこ目撃されたからって、そんなに照れるなよ。今撮った画像は公開しないであげないこともないからさ!」
「撮ったのかよ!!」
「僕を誰だと思ってるんだい?」
「死ねーーーーーーーーー!!!!」
「あははははははははは!」
 スキップしているくせに何故か音速で走る男と、激怒しながらクリムゾンヘイトをふりかざす男が怒涛のような勢いで駆け去っていった。
 あとに残されたネルは、石になったかのように固まっていた。
 が、二人の姿が見えなくなると、崩れ落ちるように雪の上にへたりこんだ。
「ふふ…」
 自分でも気がつかないうちに、笑いがこみ上げてくる。
 よかった。
 あいつが死ななくてよかった。
 そう思うと、自然と笑いがこみ上げてくるのだ。
「あは、ははは…」
 その傍らで、ソフィアがせっせと焼きあがった芋を回収している。
「あれ?なんかこれ、壊れちゃってますねー。でもバックアップ機能つけといてもらってよかった♪おかげでほら、こんなおいしそうですよ!って、ネルさん、何笑ってるんですか?」
 高台から漂う石焼芋の甘い香りが流れる街を、異世界から来た最終兵器少年と漆黒団長がすさまじい破壊音をたてながら爆走していったが、誰も止められる者はいなかったという。
 その後の被害報告では、雪崩の方がましだったとかなんとか。




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