社長は朝から憂鬱だった。 いつものように優雅な音楽とともに目覚め、カーテン越しに差し込む朝の光に目を細める。 眠いが、起きなければならない。 重い頭を振り、洗面台へ立つ。 美しく磨き上げられた洗面台へ顔を伏せ、毎日現地から送らせている天然水のぬるま湯で端正な顔を洗う。そして毎日新品に取り替える清潔で柔らかいタオルで顔を拭い、純天然毛の歯ブラシで歯を磨く。 それからやはり最高級のブラシで金色の髪を整え、艶やかなシルクのパジャマから白と紺を基調としたローブに着替える。ローブ型の服はこの世界で一般的なものだが、その素材の高級感は他の追随を許さない。 彼はルシファー・ランドベルド。 この世界最大の企業であるスフィア社の若き社長だ。ちなみに、世界一の金持ちでもある。 そんな社長の一日は、いつもこうして始まっていた。 それなのに。 このところ、爽やかな朝を迎えることができない。 実はこの寝室も洗面台も音楽も朝の光さえも、コンピューターが生み出した仮想物質なのだ。 そして、自分自身も例外ではない。 社長は、自らの莫大なデータを収めてある仮想空間の中にいた。 開発者のくせにこの世界にもゲームにもさしたる興味のない社長としては、この仮想空間で生活するなど思ってもみないことだった。しかし、あるのっぴきならない事情により、仕方なく仮想空間に精神を投影して引き篭も…いや、立て篭もっている。 たとえ仮想空間にいても、スフィア社の社長としての責務はこなさねばならない。日課として、起きてからまずメールの処理をする。 臨時の仕事部屋にしているこの仮想空間の中枢の、休むことなく演算処理を続けている端末の前にある空間に手を伸ばすと、光るタッチパネルが浮かび上がる。 その一部を軽く叩くと、いくつものモニタが宙に展開した。 そこに映し出されるのは、社長を務める限り逃れられない量の膨大なメールである。 「講演依頼?高尚に過ぎる私の話を猿どもに聞かせてやったところで、時間の無駄なだけだ。」 かつて一度やったところ、つまらなくて客のほとんどが寝てしまったという事実が密かにある。 「ゴルフの誘い?年寄り相手に玉遊びなどやっていられるか。」 実はゴルフができないということは、最高機密だ。 「音がときどき消える?読み込み途中で止まる?バトコレがロードできない?そんなもの、わざわざ私に持ってくるな!デバッグチームでなんとかしろ!」 いや、それでも前よりはるかに少なく…いえ、なんでもありません。 うんざりしながら適当に目を走らせていると、その秀麗な口元が引き攣った。 ―ウィルスを発見しました― メールの一件が、社長特製の駆除システムに引っかかったらしい。しかし間もなく、 ―ウィルスを駆除しました。同時に、発信元に破壊プログラムを送信いたしました― そのメッセージを見て、ほっと胸を撫でおろす。 今回のウィルスは、無事に駆除できるものだった。 そう、彼が仮想空間に立て篭もらざるを得なくなった原因は、どうしても駆除できない凶悪なウィルスのような連中のせいなのだ。 それは自然発生した。 彼が開発し、管理している巨大オンラインゲームのエターナルスフィアは、複数時間軸間の世界構築シミュレーションを行える高度なプログラムのもとに稼動しており、いちいちこちらから介入しなくても自動的にその世界の時が進んで成長していくようになっている。 それだから一部の連中は、エターナルスフィアは既に独立した別の世界となっている、などとほざいているが、この不可能とも思えたシステムを開発したのは自分だ。自分が作ったものである以上、それはデータという創造物に過ぎない。 しかしそれは高度すぎる故に、思わぬ結果を見せた。 シミュレーションによる世界が予想以上に進化しすぎたのだ。 その結果、予想外のデータ、ようするにバグを産み出してしまったのである。 それが、奴らだ。 奴らはゲームバランスを思い切り崩す強さを持っているだけでなく、こちらが作ったバグ修正プログラムまでぶち壊すようになったのだ。 エターナルスフィア内の連中が最強と思っている兵器さえ難なく消去するプログラムを、そのバグどもは剣やら拳やらでぶっ壊してくれるのである。 それだけでもありえないというのに、なんと奴らは自分たちが作られた存在であると気づいた。そしてさらに、修正プログラムを送ったことを恨んでこちらに殴りこんできたのである。その、ゲームキャラとはいえ冗談のような強さのままで。 奴らは自分たちFD人を災厄のように言っているが、向こうこそ災厄である。被害者ぶるなら、その物騒なものをしまえと言いたい。 何をどうすれば0と1の集合体である奴らがこの世界に飛び出してこられるのか、社長の天才的頭脳でも理解し難い。いや、この世界一の頭脳をもってしても理解できない奴らの存在など認められない。そんなものは存在してはいけないのだ。 「だからこそ、絶対に奴らを消す!」 思わず決意が口をついて出たときだった。 数あるモニタのうちの一つから警報音が鳴り響いた。 そのモニタに視線を走らせた瞬間、社長の白皙の顔容に緊張が走った。 それは今自分がいるこの仮想空間に、何者かがアクセスしようとしている警報だ。 よりによって、あのバグどもである。 FD世界最大の会社だけあって、ハッキングを試みる者は後を断たない。しかしいずれも自分が作った史上最強のファイアウォールに阻まれて挫折してきた。 それなのに、ついに奴らはわけのわからん力を使ってファイアウォールのシステム内に浸入してきたのだ。 社長は余計なモニタを下げて、ファイアウォールに浸入したバグどもを全力で駆逐しようとキーボードに指をかけた。 「これ押すとどうなるんだろうね。」 「試してみりゃいいじゃねえか。」 偶然壁の一部に触れたときに浮かび上がってきた端末を前にして、アルベルとネルが首を傾げていた。 エターナルスフィア内でも珍しいほどに未発達な文明しか持っていない惑星の住人である彼らには、今自分たちがいるファイアウォールがどういう場所なのかよくわからないし、そもそも世界が滅びようとしている理由さえよくわかっていない。ある意味、彼らのような存在だけなら大幅なプログラム修正など必要なかったのだが。 二人には目の前の端末の意味さえよくわからない。 ネルは光るパネルに恐る恐る指を伸ばしてみる。確かフェイトたち星の船組は、こういった宙に浮かぶ光る板(と見えている)に触っていろいろと情報を得たりしていたはずだ。 「下手に触って、爆発したりしないだろうね。」 「何を今更びびってやがる。なんなら俺が試してやろうか?」 「いいよ、あんたが触ったら爆発しないものも爆発しそうだから。」 「機械5のてめえに言われたくねえ。」 「うるさいよ。」 憎まれ口を叩き合いながらパネルの一部に触れると、いくつかの光るモニタが立ち上がる。 「おや、きれいなもんだね。」 「何が書いてあるのかさっぱりわからねえな。こっちはどうだ?」 「あんた、遊んでるんじゃ…って、なんか記号が出てきたよ。じゃ、これは?」 特に爆発もしないとわかって安心したのか面白くなったのか、二人してぽんぽんと思いつくままにパネルを触っていく。 「…ん?」 モニタに映ったプログラムの異常に気づいた社長が急いでその原因を探ったところ、なんと、ファイアウォールの内部からプログラムがいじられているではないか。敵の侵入に備えて、ファイアウォール内部はいつでも映像として映し出せる機能を持たせてある。すぐに画面を切り替えると、そろいもそろってやたらと露出度の高いプリン頭の男と赤い髪の女が端末をいじっているのが見えた。奴らは指名手配バグどもの仲間だ。 「あああ、ド素人の原始バグどもが私の芸術的なプログラムに触るな!しかも偶然だけでBIOSいじってるんじゃない!…あ!」 モニタが突然暗転する。 「あれ、真っ暗になったね。ランプの油が切れた…ってわけでもなさそうだけど。」 「ちっ、何も見えねえな。」 「ちょっ、どこ触ってんだい!」 「偶然だ。」 「偶然でそんなとこ、も、もも、揉ん…」 「細かいこと言うな。どうせ誰もいねえし見えねえし。」 「時と場合を考えなっていうんだよ、ばかっ!って、こらっ、やめ…!」 モニタは暗転したものの、音声はしっかり生きていた。 真っ黒なモニタを前に、社長が男の割に華奢な肩を震わせている。 「…思いっ切りシステムの一部にエラー発生させといていちゃつくんじゃない!原始バグどもが!」 「うふふ、兄さんたら彼女いないからって妬かないの。」 「やかましいブレ…い、いつの間に!?」 慌てて見回すが、妹の姿はどこにもない。意見の相違から兄と袂を分かった妹は、今はあのバグどもに協力して行動を共にしているはずで、ここにいるはずがない。 確かに聞こえたと思ったが、疑心暗鬼から来る空耳だったのだろうか。 社長は何かを振り払うように首を振ると、原始バグどもに壊されたプログラムを修復しにかかった。 フェイトたちは、手分けをして様子を伺うことにしていた。 「この程度のファイアウォールしか構築できないくせに創造主を名乗ってるの?馬鹿にされたものね。」 こちらは意図的に出したパネルからプログラムを覗いているマリアが、肩をすくめた。そのほっそりとした少女の姿からは、エターナルスフィアに発生したバグ的存在の中でも最も危険な部類に入るとはとても思えない。 ちなみにエターナルスフィア最強最悪のバグは、彼女の側で周囲を見回している少年だった。 フェイトはそんな凶悪な雰囲気は微塵も感じさせない爽やかな笑みを浮かべ、 「なあマリア、ここってコンピューター中枢を守るためのファイアウォールなんだよな?」 「そのつもりみたいね。穴だらけだけど。」 「そんなところに入ってきたってことは、僕らはウィルスみたいなものなんだろ?それなら、ねえ…」 最終兵器二人組はよく似た顔を見合わせ、どす黒い微笑を浮かべた。 原始バグどもが壊したプログラムの修復をしていた社長の耳に、別の警報音が飛び込んだ。 そちらを見た瞬間、ぎょっとした。 「なっ、奴らめ、何を!?」 今度の敵は、外敵を防ぐはずのファイアウォールの中から逆にスフィア社の中枢コンピューターにハッキングして、プログラムを改竄しようとしているのだ。 今度は素人がいじっていて偶然ぶっ壊したなどというものではない。明らかに意図的なものだ。 即座にこちらのシステムの防衛にとりかかる。 「あら?やっと気づいたようね。私と打ち込み速度を競おうなんて、面白いじゃない!」 そして創造主対アルティネイションの静かな対決が始まった。 「さすがマリア、改変はお手の物だね。僕も暇だからなんかやろーっと。」 神速で打ち込みを続けるマリアの側に座り込み、新たなパネルを呼び出した。 「くそっ、これをやらせては脱税していることになるではないか!おまけに不正利益まで上げてることに…って、誰だ!?スフィア社ホームページをちまちま書き換えてる奴は!勝手にブラクラにするな!」 しかしそちらを修正しようとすると、改竄が進んでいってしまう。 「おのれ、0と1の集合体の分際で…!ええい、システム部の連中を総動員して…」 現実世界のスフィア社にいる社員に連絡をとろうとしたところで、再び声がする。 「ほほほ、兄さんもついに彼らに負けを認めたってわけ?」 「ばかな!奴らごとき、私の敵ではないわ!」 「あらそう。じゃあ、一人でがんばりなさいよ。あとでおにぎり差し入れてあげるから。」 もはや、何故妹の声がここで聞こえるかなどどうでもいい。 結局一人で極悪ハッカーどもの相手をすることになってしまった社長は、右手でマリアのプログラム改竄と、左手でフェイトのいやがらせと戦う羽目になってしまった。 打ち込み勝負は多勢に無勢で、社長の不利は明らかだった。それでも全神経を集中し、改竄と悪質な嫌がらせに対抗しているのだから、さすがだと言える。 しかしそんな社長の奮闘など知る由もないというかどうでもいいフェイトは、 「なんか飽きてきたね。」 「そうね。いつまでも遊んでるわけにはいかないし。」 マリアもあっさりと頷き、仕上げとばかりに一気にプログラムを打ち込んだところで手を止めた。フェイトもスフィア社ホームページのトップにエロ画像を貼り付けて「スフィア社がんばってます」と書き込んで終わらせる。 ちなみにこの画像はクリフがディプロの自室にこっそり保存していたものを、そっと失敬しておいたものだ。自分で使うのではなく、脅迫材料のひとつとして。 朝から異様なエネルギーを使ってしまった社長は、改竄されたプログラムの修正を終えた瞬間机にばったりと倒れ伏した。結局朝食を摂る暇もなく、気づけば昼になっていた。むしろあれだけのプログラム修正をその時間内に一人で終わらせたのだから自分を誉めてやってもいいのだが、それは社長のプライドが許さない。 「う、眩暈が…」 疲労から貧血を起こして気分が悪いが、ベッドに戻るわけにはいかない。何しろ奴らがまだファイアウォール内にいるのだ。今まで一匹たりとも侵入者を許したことのない防衛システムを、奴らは簡単に蹴散らして行く。 頑強なはずの防衛システムをほっそりした女が素手で殴り飛ばしたり、ゲームしかやったことのないただの学生が非人間的な動きでモンスターだろうがロボットだろうがぶった斬っていく様を見ると、怒りを通り越して呆れるしかない。 それでも戦闘を繰り返すうちに少しは消耗するかと思いきや、怪我をしても紋章術とやらで回復したり、アクセサリーで回復を補助したり、中には敵から体力気力を吸い取る奴までいる。さらに、ばかでかいおっさん一人に担がせた荷物には莫大に回復アイテムが用意されていて、奴らは毎回元気いっぱいで戦っている。 現実世界であんな非常識な連中に襲い掛かられては、勝てるわけがない。 ならば自分自身システムに入って、強いキャラクターになるしかない。だからこそ、あえてシステム内で奴らを迎え撃つことにしたのだ。あわよくばファイアウォールの防衛システムで奴らを駆除できればいいと思っていたが、どうやらそれは無理なようだ。だとすると、やはり自分自身の手でやるしかない。 自分が創造した世界で己のパラメータを最高ランクに設定することなど容易い。 「見ているがいい。飛んで火に入る夏の虫とはきさまらのことを言うのだ!」 コンピューター中枢に、勝利を確信したような高笑いが木霊した。 今まで世界中のハッカーもいかなるウィルスも突破することのかなわなかったファイアウォールをくぐり抜けた奴らは、ついに社長がいるコンピューターの中にやってきた。 今はこの中にも奴らのためにトラップを用意してある。 しかしそれらさえ撃破して、奴ら進んでいく。 「まったく、私の偽者を用意して攻撃させるなんて、兄さんも悪趣味ね!しかもあんなに性格の悪い…」 妹の愚痴が聞こえる。 少なくとも、実際のおまえよりかわいく作ったつもりだぞ。 あのおまえはあんなに素直だったじゃないか…いつも裏で何をやっているかわからない本物のおまえと違って。 そう言ってやりたいが、どうしても言えないのは何故だろう。 妹が怖いわけではないぞ、決して。言うと憐れだから言わないでいてやっているだけだ。兄として。 そう自分に言い聞かせるように、口の中で繰り返す。 その間にも、奴らは着々と迫ってきている。 莫大に配置したバイオキメラを次々と倒し、わざわざ復活させてまで何頭も倒しまくり、自分がいる中枢へ近づいてくる。 そしてついに、その時が来た。 中枢へとつながる、見上げるほどにそびえる扉の前に、奴らがいる。 ここまで来られたことは、一応誉めてやる。 しかしきさまらの足掻きもここまでだ。 この私自ら、きさまらを消去してやる。 きさまらの時間は、この瞬間に止まるのだ。 社長はゆっくりと立ち上がった。 「ここにルシファーが…」 「奴さえ倒せば、世界の消滅は避けられる!」 「さあ、皆…」 フェイトが、ここまでともに戦ってきた仲間たちの顔をゆっくりと見まわす。 そして力強く頷き、 「じゃあ、戻ろう!!」 だあー!! 盛大にコケたのは、扉の向こうでポーズを決めてかっこつけて待っていた社長であった。 「なっ、きさまら…!?」 バグ集団は、もと来た道をまた戦いながら帰って行く。 開けられることのなかった扉を前にがっくりと両手をついた社長は、緊張感が一気に解けたというか、ほっとしたと言うか。 惚けたように固まっている社長をよそに、中枢システムはひたすら演算を続けていた。 それ以来、奴らは何度となく眼前まで迫ってきた。 しかしその都度扉の前で引き返していく。 奴らは自分を倒したかったのではなかったのか。 バグどもの真意がわからなくなってきた。 「ふ、ふふふ…バグどもめ、この私に恐れをなしたか。」 いいかげん仮想空間生活にも嫌気が差してきたし、そろそろ現実世界の自宅に戻ろうか。 そう考えていたとき、このところ恒例となっている奴らの侵入を知らせる警報が響いた。 どうせまた目前で引き返すつもりだろう。 かまわずに仕事を続けていると、背後で重いものが動く音がした。 「!?」 なんと、奴らが扉を開けて入って来るではないか。 何故今ごろになって? 取り乱しそうになるのをなんとか理性で押さえ込み、創造主としての威厳を最大限に示しながら奴らを見下ろす。 なんだか最初に来たときより、それぞれのパラメータが上がっている気がする。 バグどもの頭目である小僧が、爽やかに微笑んだ。 「待たせたね、ルシファー。バトルブーツを八個ずつ合成するのにさ、お金がなかなか貯まらなくて…。で、まずは裸勝利(ただし男限定)と鉄パイプオンリー勝利、どっちがいい?」 「……」 思わず、奴らを見回す。 常に裸勝利のような筋肉ダルマじじぃ、2m近いやはり筋肉ダルマなおっさん、細身だが凶悪犯罪者のように人相の悪い青年がこちらを睨んでいる。 そしてバグ代表は、使い込んだ痕跡のある、こびりついた血の痕も生々しい鉄パイプをやたら嬉しそうに握り締めている。 「………裸勝利女限定…とかはないのか?」 「じゃ、鉄パイプ決定ね♪」 創造物の嬉しそうな微笑に、創造主は頭の先から血が引いていくのを感じた。 はっと我に返ると、社長は中枢の前に座っていた。 何か、ものすごくいやな夢を見た気がする。 額に滲んだ汗を拭い、悪夢を振り払うように首を振ったとき、背後で重いものが動く音がした。 「!?」 なんと、奴らが扉を開けて入って来るではないか。 何故か、この光景に見覚えがある気がする。 取り乱しそうになるのをなんとか理性で押さえ込み、創造主としての威厳を最大限に示しながら奴らを見下ろす。 なんだか最初に来たときより、それぞれのパラメータが格段に上がっている気がする。 バグどもの頭目である小僧が、爽やかに微笑んだ。 「で、ルシファー。こないだは鉄パイプオンリー勝利とったから、今度は裸勝利(ただし男限定)ね♪」 「……」 思わず、奴らを見回す。 こないだは、って、前にもこんなことがあったのか?いや、なかったはずだ。ならばこの既視感はどういうことだ。そう思うと、こんなことが前にもあったと言われればあったような気がしないでもないが、一体どういうことなのか。 「…せめて小攻撃オンリー…とかはないのか?」 「じゃ、裸勝利(ただし男限定)決定ね♪」 創造物の嬉しそうな微笑に、創造主は頭の先から血が引いていくのを感じた。 はっと我に返ると、社長は中枢の前にいた。 何か、ものすごくいやな夢を見た気がする。 額に滲んだ汗を拭い、悪夢を振り払うように首を振ったとき、背後で重いものが動く音がした。 「!?」 なんと、奴らが扉を開けて入ってきているではないか。 何故か、この光景に見覚えがある気がする。 取り乱しそうになるのをなんとか理性で押さえ込み、創造主としての威厳を最大限に示しながら奴らを見下ろす。 なんだか最初に来たときより、それぞれのパラメータが鬼のように上がっている気がする。 バグどもの頭目である小僧が、爽やかに微笑んだ。 「で、ルシファー。次はどのバトコレにしようか♪」 創造物の嬉しそうな微笑に、創造主は意識が遠のいていくのを感じた。 |